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2012.10.19

【記事の概要】インド小売市場における、海外直接投資に関する決定
21 Sep, 2012, ET Bureau
India Today, September 21, 2012

この記事では、昨年から話題になっている複数ブランド小売業への海外直接投資(FDI)をインド政府が認可したことを紹介している。この決定に対して国民、政府内から反発の声が上がったが、政府はこの決定を覆すことはないという。企業はこの政策の決定に対して肯定的だが、海外直接投資をする場合にはいくつかの規定があることも紹介されている。例えば海外直接投資を受けている会社は電子商取引が禁止されており、また投資する額や投資額の内訳に関しても、複数ブランド小売業と単一ブランド小売業に対してそれぞれ規定が設けられている。なお、この政策は海外直接投資を認めるという制度であり、施行については各州や連邦直轄地の判断に委ねられる。また、この海外直接投資に関する決定は小売業にのみ適応されているのではなく、航空業や放送事業でも認められていることも紹介されている。

(これまでのインド小売市場のFDI解禁に関する経緯)
複数ブランド小売業でFDIを認める政策は行政上のものとして決定されたが、決定には外国投資促進委員会(FIPB)が関与している。政策決定の過程ではまずインド商工省(DIPP)で政策が承認され、その後外国投資促進委員会によって承認される。また、インド商工省は海外直接投資に関する決定を公開しており、全ての政策決定は内閣経済問題委員会(CCEA)という閣僚会議で行われる。


図1 FDI解禁決定までの流れ

昨年11月24日、複数ブランド小売業に関する51%までの海外直接投資の認可を閣議決定したが、野党の反対によってこの決定は先延ばしされることになった。そして今年の9月14日に複数ブランド小売業への51%までの出資が認可され、商工省がこの政策決定を発表した。この決定によって政府与党内でも政治的な問題が発生しているが、政府はこの決定を覆す意図はないという。複数ブランド小売業への海外直接投資に関する詳細な条件は表1を参照のこと。

※FIPB(Foreign Investment Promotion Board)
 DIPP(Department of Industrial Policy and. Promotion)
 CCEA(Cabinet Committee on Economic Affairs)


表1 複数ブランド小売業へ投資に関する各種条件

▼デリー州でFDI解禁の可能性 
Business Line NEW DELHI, OCT 13
THE TIMES OF INDIA PTI Oct 14, 2012, 01.35AM IST

デリー州主席公使のSheila Dikshit氏は、次の会計年度までに同州で複数ブランド小売業でのFDI解禁の可能性を示唆した。近代化を取り入れて進歩している世界各国と比較し、インドではFDI解禁に反対しているインド人民党(Bhāratīya Janatā Party)は国と人々の発展に関心が無く、近代化に対して後ろ向きであると批判した。

Sheila氏はまた、FDI解禁によって農家は適正価格での農作物の売買が可能となり、消費者は手ごろな価格で高品質の製品を入手できるだろうと述べた。事業者に関しては、どんな事業も相互に協力して成立していることから、規模が小さい事業者でも不利益を被る可能性はないだろうと述べた。

インドは人口が多くあらゆる種類の店舗や事業が必要とされているため、FDIが解禁されても小売業への影響はないだろうが、現在はFDI解禁に対して悪い印象を与えるために、様々な噂が飛び交っているとのことだ。

【弊社分析・コメント】
▼インド小売市場の変化

同規定の閣議決定により、日本のコンビニやスーパーマーケット、百貨店など複数ブランドを扱う外国企業がインドに参入できるようになった。既に一部の日本企業も現地のパートナー企業を探し、調査を進めている。外資の複数ブランド小売業が参入することによって、伝統的なインドの商習慣に大きな変化をもたらす可能性がある。

インドの伝統的な小売業は世襲制が多く家族経営が基本である。また個人消費者の特徴として、高品質なものではなく自分が知っているものを購入したがる傾向にある。これまでも、単一ブランド小売業への投資要件が緩和され、ナイキやルイ・ヴィトンなどの有名ブランドがインド市場に参入した際には多くの消費者を引き付けた。つまり、これから海外有名ブランドが続々と参入することによって、消費者のブランド志向がますます高まる可能性がある。そして零細小売業の品揃えは複数ブランド小売業の品揃えには及ばないため、淘汰される可能性もある。現在インド小売市場の95%は零細小売業が占めているが、複数ブランド小売業の需要は増加していくだろう。

▼中間層の増加

図2 インド中間層の増加

図2で示されている通りインドでは近年中間層の増加が著しい。インド政府が定義する中間層とは、世帯年収が20万ルピー(約56万円)から100万ルピー(約280万円)の人々のことである。中間層増加の傾向はこれからも続く見込みであり、彼らの幅広いニーズに対応していくことが企業に求められる。中間層のニーズには、従来の「低価格」製品だけではなく、「高機能・高価格」の製品も含まれる。可処分所得の増加によって、消費者が消費行動を楽しむための金銭的余裕が生まれたのだ。しかし、現地の零細小売店は品揃えに関して複数ブランドを扱う組織化された小売には及ばないため、幅広い中間層のニーズを満たすのは難しい。だが、組織化された日本のコンビニやスーパーマーケットが進出することによって顧客のニーズを満たすことができる可能性がある。実際にインド国内のスーパーマーケットやハイパーマーケットが消費者から支持を得ており、日本の複数ブランド小売業がインドに進出する価値はある。

また、図3にあるように、現在インドのGDPにおける小売りの割合は22%であり、全体の5分の1を占めている。そして図4に示されているようにインドの小売業は高い成長率を誇っている。これから成長が見込まれる小売の分野に投資する企業は増えてくると予想されるため、パートナー企業の選択肢が多いうちに市場に参入することが賢明だろう。


図3 インドGDPにおける小売業の割合


図4 インドの小売市場と成長率

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